太陽が西に沈む頃 後編[18]「よし、デスウェーブ、送信開始だ」 クレイが傲慢に指示を出す。ジェームズはまだ待つべきだ、と思っていた・・・今は時間を稼ぐときである。 「あと1分で転送が完了する・・・あ、まて!ノールの生体反応が消えた」 「な・・・ばかな!奴が自殺したとでも言うのか?」 「わからん・・・だが何かあったに違いない・・・」 テロリストは混乱しかけていた。・・・・素晴らしい。 「貴様が何かしたんじゃないのか?そういえば2日間ほど怪しいときがあったな」 クレイは銃をジェームズへ向けた。ジェームズが若干後ずさる。 「すべてを言え。後5秒だ。5・・4・・3・・・」 「再度探知!今度は地球外からです・・・それほど遠くないな」 「FBIに連絡は?」NSA長官が尋ねた。 「すでに取ってあります。現在メール発信地に急行しています」 「いい仕事ぶりだ、少尉」 「よせよ、クレイ。俺がお前にどれほど協力したっていうんだ?」 「さっさと答えろ、クソガキが。2・・1・・・」 その瞬間窓から何かが部屋の中に打ち込まれ強力な閃光を発した。クレイは突然の出来事に指を引くことができなかった。 二人とも目と耳をやられて何が起きたのか理解できていなかった。 やがて手錠がかけられ体を電気ショックで体が麻痺した。ジェームズは薄れていく意識の中でわずかに声を聞いた。 「こちら、アルファ1・・・目標を制圧した・・繰り返す・・目標を・・」 「解析完了。発信源は惑星クレベリン―観光地用にバーチャルシステムに力を入れて開発中のところでしたが、有毒鉱石の宝庫だったため現在は誰もがいっていかなくなったようです」 別の情報将校が言った。 「FBIより、テロリストを制圧したとの連絡です。死者は出ませんでした・・・あっけなかったらしいな・・」 「よし・・・落ち着いたらクレベリンに部隊を派遣しよう」 [19] 「これ、理恵が撃ったんだろうな。」省吾が言った。 「どうしてこんな物騒なもんあいつが持ってんだろ。」 「どっかに置いてあったんだろ。こんなとこだし。」 「俺、理恵探してくるから。」そういって翔は立ち上がった。 「私は殺人犯なんだ。私は殺人犯なんだ。」そうつぶやきながら理恵は走り続けた。何も考えずに、ただ走った。何かから逃げるように。 走り続けた彼女の先には博多湾があった。理恵と由梨がよく一緒に遊んだいわば思い出の場所だった。 釣り用の桟橋に来た理恵は、このまま身を投げてしまおうと大きく手を広げた。 自分は人を殺したのだからそれなりの報いを受けなければならない。理恵の頬に一粒の涙が流れた。 「そんなところで何しているんだ。」狼のような低い声で話しかけていたのは、翔だった。 「どうしてこんな所に来たの。」 「お前が自殺しようなんて思うからさ。」 「え・・・・?」理恵は驚いた。自殺するだなんて口に出していなかったのに。 「当たりだろ。」 「私は人を殺したの。だからその罰を受けなくてはならないの!」 「でも俺の命を助けたのもお前じゃないか。お前は俺の命の恩人なんだぞ。」 「人を助けるために人を殺しちゃ意味がないじゃない!」 「もしあいつが俺を殺していたら、省吾やお前まで殺されていたかもしれない。お前はたくさんの命を救ったんだぞ。」 「でも人の命を奪ったことには変わりないわ!あの人にだって家族がいただろうし・・・・。」 「お前にだって家族がいるだろう!お前が死んで悲しむ人が何人いると思ってんだ!」 「殺人犯が死んで悲しむ人なんていないわ!」 「それは違う!誰にだって大切な人はいるし、大切に思ってくれる人がいるんだ!」 「そんな人私にはいない。」理恵の頭の中で由梨のことが思い浮かんだが、すぐに消えた。 「はぁ。」翔はため息をついた。 「そんなに死にたいんなら死ねばいいじゃないか。」 どんっ、と翔は理恵を海に突き飛ばした。理恵の体は宙に浮かび、ザバーンと大きな音を立てて海に落ちた。 「何すんのよ!」理恵は桟橋の端をつかんで怒った。 「ほら。やっぱり死にたくないんじゃないか。」翔はにやりと笑いながら言った。 「へ・・・・・?」 「お前の携帯に写っていた子にこれを渡すんじゃないのか?」理恵を引き上げたもう一つの手でポケットから何かを取り出した。 「あ、それ・・・・・。」翔の手には理恵が由梨にあげるために作った「ミサンガ」が握られていた。 「お前の言うことは正しい。人を殺しちゃいけないし、当然その報いを受けないといけない。でも死んだら全てがOKというわけではない。みんな、罪を背負って生きているんだ。その罪から逃げてはいけない。」 びしょびしょの理恵の顔に、さらに涙が流れた。 ちゃんと西に沈んでいない太陽が、こうこうと輝いていた。 [20] 翔は理恵を引き連れて発電所に戻った。 「おかえり。」 「どう、返事は来ました?」 もちろん、春日基地に送ったメールの返事である。 「いや。」 「そうか。」 理恵には何の事だかサッパリ分からない。 「あっ、理恵は知らないのか、これまでの経緯を。」 理恵はこくりと頷いた。 「まず、パソコンがあったわけ、そしてメールが使えたの、だから返事を待っているのだ。」 …省吾の段取りのつかない説明では分からないので、ここで今までの経緯をおさらいしてみよう。 翔、省吾、理恵の三人が気付くと、地球からは人類が消え去っていた。その後、園山という正体不明な人物に会ったが、彼はビルから飛び降りて自殺してしまう。そこにあった方位磁針を見て、ここが地球でないことに気付いた三人だが、理恵は二人から逃げ出してしまう。二人は、犯人の居場所が発電所であると睨み、そこへ向かうが犯人に捕らえられてしまい絶体絶命のピンチに。その時、理恵がレーザーガンで犯人を撃って二人は助かるが、またしても理恵を見失ってしまった。困った二人だが、パソコンを見つけて地球へメールを送ることに成功する。翔も博多湾で理恵を発見して、今に至るのだ。 さて、筆者による分かりやすい説明が終わったところで、省吾は翔に尋ねた。 「で、夕食はどうする?」 日はもう暮れている。 「まだ、非常食は残っていたよな。」 翔が確認する。 「あぁ、量はまだまだあるよ。」 「量は?」 「いや、毎日同じで食べ飽きてきたなぁと思って。」 「贅沢言うなよ…」 三人はあまりおいしくない夕食を摂った。ついに、理恵が立ち上がった。 「私、今からこの周辺の家を回って、食べられるものがないか探してくるね。」 翔と省吾は同時に言った。 「いや、危ないだろ。」 「大丈夫、この周辺ならちゃんと土地勘があるから。」 そう言って彼女は出て行ってしまった。 「俺等はどうする?」 翔は尋ねた。 「それなら、俺が発電用の燃料でも探してくるよ。」 翔は何を言っているのとでも言いたいかのように、 「そんな物が何処にあるわけ?」 と尋ねた。 「隣街の発電所にはあるだろ。翔は、留守番でもしておいてくれ。」」 そう言って、省吾も出て行ってしまった。直後に、エアーカーのエンジンをふかす音が聞こえた。 「あれっ、あのエアーカーって俺のだよな。鍵なんか渡したか?」 しかし、入っていたはずのポケットに鍵はない… さて、発電に使われている燃料は、ロシアの方で掘り当てられたものである。石油ではないのだが、それなりのパワーを発揮する。 うって変わってここは地球、由梨の家である。由梨は、今日も勉強机に座りっぱなしでいた。 三人の存在を発見したことは、まだ世間には知られていない。そもそも、生体反応を確認しただけで、絶対に彼等であるという確証はなかった。 由梨は理恵がいなくなってから二週間程度、漫画を描くためのペンを握っていない。 「理恵…」 由梨は、子供のころから漫画家になると断言し続けていた。しかし、現実は甘くないことに気付いて、一時はやめようかとも思った。そんな高一の頃、理恵と出会った。 「すごい、絵が上手じゃない。」 その時、初めて彼女の喋り声を聞いた。それが、今までにないくらいの勇気になった。 不意に由梨は、今までに描いた自分の作品を見た。驚いた。笑ってしまった。つまらないにもほどがあるではないか。物語は単純で、主人公は大した苦労もなくハッピーエンドを迎える。設定だって、毎回大して変わらない。その時、彼女は気付いた。 「私、理恵に漫画で褒められたことがない。」 理恵は、彼女の漫画は褒めなかった。ずっと、彼女の絵だけを褒めていた。 「私、お嬢様だったのだな。」 彼女は今まで、トントン拍子で人生を歩んできた。だから、そこまで大きな苦労や辛さを味わうこともなかった。漫画に挫折した時だって、理恵が慰めてくれたから、そんなに痛みも感じなかった。でも、今は違う。理恵はいない。いない。いない。だからこそ、ペンを握った。今なら書ける気がした。人の苦労も。辛さも。何だって。 省吾は隣街の発電所に到着した。どうやら、鍵もかかっていないようだ。 中には、結構な量の燃料があった。 「これなら、しばらくは持つな。」 省吾はもう少し探索を続けることにした。すると、一つの鉄の箱が置いてあった。 「何だこれ。」 省吾はそれをつい開けてしまった。開けると、そこからは強烈な悪臭が。慌てて、箱を閉めた。 「ゲホゲホ、開けなきゃよかった。にしても、何だあれ?」 箱の中身は悪臭だけでなく、紫に光る石のような物が沢山あった。何の石なのだろうか?見たことがない。とにかく、あれで省吾はこれ以上探索する気がなくなってしまった。 「さっさと引き上げるか。」 エアーカーに乗り込んだその時、急に意識が朦朧としてきた。 「NSAのみなさん、くれぐれもお気を付けて向かって下さい。」 FBIの人がいう。あのメールをもらってから、あっという間に彼等のいる、惑星クレベリンへロケットの派遣が決定した。メールはまだ送り返していない。そんな暇もないほどトントン拍子で派遣が決まってしまったのだ。 数時間後、NSAの長官からロケットへ連絡が入った。 「これで三度目だが、念には念を押して忠告しておく。あの惑星にある紫色に光る鉱石には何が何でも近づくな。あれから出る悪臭のするガスは、麻薬のような作用を引き起こす。効果は一定時間経てば消えて、後遺症などもないのだが、未開の地だ、何があるか分からぬ。充分に気をつけて探せ!!」 「ただいま。」 理恵が戻ってきた。 「どうでした?」 「…そっちは、メール来ました?」 何も見つからなかったのだな、翔は判断した。 「いや、本当に届いているのかなぁ?」 すると、ジャストタイミングでメールが送られてきた。 「連絡遅れて申し訳ない、―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ということで、ロケットがそちらに向かっている。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― FBIより」 二人は手放しに喜んだ。 「由梨、由梨。」 だが、その時、何かが崩れるような轟音がした。 「何だ?」 二人が外に出ると、隣の商店街に翔のエアーカーが突っ込んでいた。 「ど、どうなっているのだ?」 翔は呆然としている。 「あっ、岸川さん。」 エアーカーの中には大怪我を負い、意識のない省吾がいた。 [21] FBIや陸軍、民間組織の30人からなる調査団は惑星クレベリンに最も近い峡谷惑星グラナドのウィスロン防衛基地を経由し、専用探査船でクレベリンを目指した。 合衆国戦略宇宙軍第12小隊長のロイ・ラッセル中尉が調査団に対し注意を促した。 「我々が向かう惑星はわずか3年前に見つかった新しい惑星で、当初レジャーランドとして日本の会社が開発に取り組んだが、惑星の大気に有害な【クレーベル】が含まれていることがわかった。 この物質はすぐには影響をださないが、じわじわと人体を蝕み、やがて幻覚や頭痛、めまい・・・・最後は死に至る。なので、惑星内ではこの携帯型ガスマスクを着用すること」 小隊長は一呼吸おいた。 「・・・また、ウィルスや危険な大気についてはこちらのドクター・ジョエルが担当する」 指名されたドクター・ジョエルは起立し、一礼した。彼女は30代でかなりの美貌でありながらもウィルス研究のトップを走っている。男たちの顔が思わず和らいだ。 「非常に稀ではあるが、危険な生物が繁殖している可能性がある。だが、その際は我が戦略宇宙軍第12小隊の精鋭・・・とはまだまだいえないが、お守りする」 隊員の一人が快活に言った。 「隊長こそエイリアンの餌になんかならないでくださいよ」皆笑った―いい雰囲気だ。 省吾の手当てを使用にもどうしようもできなかった。航空自衛隊員である彼が治療には詳しそうだが、負傷しているのは彼なのである。ホテルまで運んできたがどうしたものか・・・。 「どうしよう・・死んじゃだめだよっ!」 「とりあえず止血はしといたけど・・・どうしたんだろう?まさか彼が運転を誤るとは思えないけどなぁ・・・」 翔はそのとき軽い頭痛を感じた。ちょっと横になりたい・・・。 「どうしたの?」 「いや、頭痛がして・・・すこし寝かせてくれ」 彼らは、何故この星に人がいないのかいまだにわからないままだった。 [22] 翔はベッドでもがいていた。最初はちょっとした頭痛だと思っていたのだが、吐き気もするようになってきた。こんなところで風邪を引くとは思っても見なかった。 「大丈夫ですか?」理恵が入ってきた。 「え、あ、うん。大丈夫だよ。」翔は無理に笑って見せた。 「発電所のコーヒーメーカーは機能するみたいです。」理恵はコーヒーを取り出した。 「ああ、ありがとう。」翔はコーヒーを受け取った瞬間にバタンとベッドに倒れこんでしまった。 「え?しょ、翔さん!?翔さん!」理恵が体をゆすっても意味がなかった。 「おいおい、どうしたんだよ。」部屋に入ってきたのは省吾だった。 「あ、省吾さん!気がついたんですね。よかったです。そ、それより翔さんが・・・・・・・。」 「どれどれ。」2人の予想通り省吾は治療に詳しかった。 「肺に以上がありそうだな。こいつタバコ吸い過ぎたんじゃないのか?とりあえず・・・」省吾はタバコが入っていたポケットから紙のマスクを取り出した。それを理恵と翔にかけさせ、自分もかけた。 「臭っ!」理恵が悲鳴を上げた。 「そりゃ臭いだろう。それは確か乾がつけていたやつだからな。」少しいたずらそうな目で省吾が言った。 「そんなの渡さないでくださいよ~。」理恵がマスクをはずした。 「あ、それはつけていたほうがいい。隣町の発電所に行ったときものすごく臭い紫色の石があった。俺が気絶するぐらいのな。」 「え・・・・」理恵は翔とマスクを取り替えていた。 「それと、この町に入ってから空気がガラッと変わったような気がするから、この町全体にその紫色の石の空気が薄くなって漂っているのかもしれない。」 「え、じゃあ私たちももう吸っているってことですか?」 「まあ単純に言うとそうなる。」 「それいやですね。」理恵は翔が飲むはずだったコーヒーをすすった。 そのコーヒーの臭いが省吾の鼻に入ったとき、省吾が急にむせ始めた。 「げほっ、げほっ。わ~、これはやばい。」 「大丈夫ですか?」 「はあ、おさまった。」 「は~、よかった。一時はどうなるかと思いましたよ。」 発電所のパソコンには3通のメールが来ていたが誰も気づいていなかった。 [23] 夜、理恵は外で星を見ていた。といっても、彼女の趣味が天体観測だとかそういうわけではない。助けのロケットが早く来ないかな?と思って見ていただけだ。 「キレイ。」 周りの街灯は機能していない、真っ暗な世界なので、星の光が更に際立って美しい。 一方の地球は、暗雲が立ち込めて天体観測なんか出来る状況ではない。 それはさておき、由梨はまた漫画を描いていた。 彼女は、つらい気持ち、寂しい気持ちを全てぶつけた。漫画に、全てを。 「あっ。」 理恵は空に浮かぶ何かを見た。それは、こちらへと真っ直ぐ向かってきている。 「ちょっと、みんな。」 確かに、確かにロケットだ。それが分かった理恵は、発電所の中へ伝えに行った。 しかし、彼等が出すのは歓喜の声ではなく、呻き声だけであった。 [24] 「なんという濃度の高さだ・・・。全員ガスマスクで防護するんだ」 ロイ・ラッセル中尉を先頭に調査団が惑星クレベリンの土を踏んだ。岩と砂の海が彼らの前には広がっていた。ところどころにうねりがあり凹凸を作り出している。 どこから探せばいよいのか―しかしこのご時世、便利なものはたくさんある。 「1200m先に熱反応。3人のようです」 装甲車両に乗って走り続ける。すると目の前には小さな小屋がポツンと立っていた。 「他に生命体はいません。しかし・・・」 「よし、タイミングをあわせろ。3、2、1・・・」 警戒しながらも部隊は小屋に突入した。 3つの巨大なカプセルに日本人が一人ずつ、死んだ様に眠っていた。 [25] 救助隊が到着する5分前……… 「う・・うう・・ぐふっ。」 「あ、ああ」翔と省吾のうめき苦しむ姿を見て理恵は悩んでいた。 二人が苦しんでいる原因はさっき省吾が言っていた大気に含まれる有害物質だろう。ということは、自分の体もこの大気によって蝕まれているのだ。そういえばさっきから胸焼けがする。これもこの大気によるものだろう。でも今はこの二人をどうやって助けるか考えないと。 理恵は発電所の棚という棚を全て調べた。何か二人を助けられるものはないか。そう思いながらあらゆる棚をガラガラと引き出し、中を調べた。そして、26個目の棚を空けたとき、理恵の顔に笑みが浮かんだ。 理恵の視線の先には、「外気遮断酸素カプセル」と四角で囲まれた文字のついたビニール生地の物体があった。 その説明書き(横に書いてあった)にはこう書いてあった。 --------------------------------------------------------------------------------------------- [Clean Air Space] このカプセルは都会の濁った空気から体を開放させるためのカプセルです。このカプセルには外気は一切入ってきません。中に入っている酸素供給機が常に一定量の酸素を維持してくれるから大丈夫!あなたに素敵なクリーン・エア・ライフをお届けします。 [使用方法] まず中に入って、リモコンでお好みの酸素濃度を設定し、あとはスイッチを押すだけ。 お子様・ご高齢者……22% 成人男性………………25% 成人女性………………24% 病気の方………………28% [注意] 10分たつと自動的に目が覚めるよう設定されております。一度大気を吸ってください。 本製品を飲み込まないでください。 ・・・・・・・・・・・・ --------------------------------------------------------------------------------------------- 理恵はそれを3つ持って翔と省吾の元へ走り、二人をカプセルの中にいれ、リモコンで酸素濃度を28%に設定して、カプセルのふたを閉めた。 そして自分も手順に従い、カプセルの中に入った。 安心したせいか、急に睡魔が襲ってきた。そういえば今日は24時間ずっと起きている。 理恵はカプセルの中で音も立てずに眠った。 由梨はテレビを見ていた。地球に3人が生きているという情報が入ってきたのだ。 「逮捕されたのは、レボリューション・カンパニーの幹部ら3人です。彼らは、無断で有害衛星クレベリンに自衛隊員の岸川省吾さんら4人を送り込んだものとされています。なお、彼らは先ほど、ぶじ救助隊に救助されました。」 その言葉を待っていた。もうすぐ理恵が帰ってくる。それだけで涙が出るほど嬉しかった。本当に涙を流して喜んだ。テレビ画面では専門家がクレベリンの大気に含まれるガスについてべらべらとしゃべっていたが、テレビを切り、部屋の反対側にある机に向かった。そこには何十枚に重なった紙があった。紙にはたくさんの漫画が書いてあった。由梨は引き出しからもっと多くの紙を出し無心に書き続けた。 これを由梨が帰ってきたら真っ先に見せるんだ。彼女の目には炎が宿っていた。 救助隊員は3人にガスマスクをつけて起こした。3人とも熟睡していたので状況を理解するのに少し時間がかかった。喜んでいる3人に自衛隊員は現実を叩きつけた。 「で、あと二人いるはずなんですが。」 3人の顔をこの一言が一瞬にして曇らせた。 [26] 翔は、救急隊員に伝えた。 「もう一人は、園山さんだろう。」 「だけど、もう一人は?」 理恵の疑問に、不安そうな声で省吾が答える。 「既に、体を毒で犯されているかもしれない。」 三人は、ちょっと悪寒が走った。 「とりあえず、ロケットに入ってくれ。ここは、危険だからな。」 理恵は心配そうに惑星を見つめ、ロケットへと入っていった。 由梨は、漫画を描き続けていた。正直、ちょっとしんどい。何せ、新しい世界を一から創り上げているのだから。 今まで、漫画を描くことが嫌になったことなんてなかった。それは、彼女にとってただの遊びでしかなかったから。 しんどい、しんどい、しんどい。だけど、描くことをやめてはいけない。この苦境を乗り越えれば、遊びが作品になるような気がして… [27] 「これは・・・最新式のバーチャルシステムだ・・・。まさかこの技術までもがテロに応用されるとは」 一人の技術官が驚きの声を発した。このシステムは軍事的に応用されるだろう。いや、必ずされる。仮想世界の行動が現実に反映される―それはつまり相手の見えない所でできることが増す。 「これは国家最重要機密に値すると思われます」 「うむ・・・とにかくこの中の3人を出さないと。特に二人の男が苦しそうにしている」 もはや事態はどうしようもなかった。翔と省吾の容態は一向によくならない。 すべてあきらめていた。これからは一人で生きていかなくてはいけないのかもしれない。 その時、激しい頭痛がした。まさか。死にたくない。頭に電撃が走った。いや、そういう風に感じた。普通より100万倍の速さの洗濯機で回されているような―すべては混沌の中。 「きゃーーーー!!!!!!!」 銃が一瞬で向けられた。・・・危険はないようだ。が、そのまま彼女はぐったりして動かなくなった。 「・・・大丈夫だ。心臓は動いている。医療班!」 そして続け様に二人の男―最後の男を見て一人の隊員がいった。 「あっ!ショウゴだ!」 「何?知っているのか?」 「彼は合同軍事演習の時に見かけました。航空自衛隊です。なぜ彼が・・?」 3人ともカプセルからとり出され、ベッドに寝かされていた。ラッセル中尉の通信はいくつもの中継基地を経由して祖国アメリカに送られた。僅か10秒ほどでつながった。 彼は見たすべてを説明した。これは大変危険な技術だ。わが国は大変な被害を被った―だがこの発見は大きい。人類は核の次に危険な技術を手に入れてしまった。 省吾はぼんやりした意識の中でベッドに寝ていることだけはかろうじてわかった。 「助かった?」心の中で思っただけである。 何か話し声が聞こえた。英語か・・・・? 「・・・・ショウ・・・・・リエ・・・」 2つの名前を聞き取れた。しかし体が1ミリも動かなかった。英語が堪能である彼は必死で会話を聞き取ろうとした。だがそれも長くは続かない。 「2人は・・・・完了した。ショウゴを第3センターに隔離する」 重い扉が閉ざされ、すべての意識が途絶えた・・・・。 完 ジャンル別一覧
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